NFTの確定申告は、個人事業主にとって「暗号資産の仕訳」と「所得区分の判定」が絡み合う難所です。私はAFP(日本FP協会認定)として資金相談を長年担当してきましたが、NFT取引の申告でつまずく方は今も後を絶ちません。本記事では、私自身が初年度の確定申告で実際に詰まった3つの壁を軸に、仕訳の具体的な処理方法を解説します。
NFT取引の所得区分の判定基準
雑所得と事業所得、どちらで申告すべきか
NFT取引の所得区分は、国税庁が2022年に公表した「NFTに関する税務上の取扱い」に基づき、原則として「雑所得」として申告します。ただし、NFTの売買を「事業として」継続的・反復的に行っている場合は「事業所得」に区分される可能性があります。
判定の目安として一般的に挙げられるのは、①取引の頻度と継続性、②収益を得ることを主たる目的としているか、③帳簿の作成・管理が行われているか、の3点です。国税庁のガイダンスでも明確な数値基準は示されていないため、個々の実態に即して判断する必要があります。判断に迷う場合は、税理士への相談を強くおすすめします。
私が保険代理店に勤めていた時期、フリーランスのデザイナーからNFTアートの販売について相談を受けたことがあります。その方は月に数点をOpenSeaで販売していましたが、「これは事業所得として青色申告できますか」と聞いてきました。取引の実態を詳しく聞くと、収入の大半は本業のデザイン報酬であり、NFT販売は副次的なもの。慎重に考えると雑所得での申告が無難という結論になりました。所得区分の誤りは過少申告加算税のリスクを生むため、一般的な目安を知っておくだけでも大きな違いがあります。
個人事業主が「事業所得」と認められるための条件
事業所得として認定されるためには、社会通念上「事業」と認められる規模・態様が必要です。2022年8月に国税庁が発出した通達改正(所得税基本通達35-2の改正)では、副業収入が年間300万円以下の場合は原則として雑所得とみなすという方向性が示されました(その後パブリックコメントを経て一部修正)。
個人事業主として暗号資産・NFTの取引を事業所得に計上したい場合は、①青色申告承認申請書の提出、②取引ごとの帳簿記帳、③事業としての実態の保持、が最低限必要です。これらを整えていても税務署の判断によっては雑所得に区分変更を求められることがあります。「事業所得として申告すれば損失を3年間繰り越せる」というメリットに目が向きがちですが、実態が伴わない申告はリスクが高いと私は考えています。
取得時の仕訳とガス代の扱い
NFT取得価額の算定方法と仕訳例
NFTを購入した際の取得価額は、購入時点での日本円換算額が基本です。イーサリアム(ETH)でNFTを購入した場合、そのETHを円に換算した金額がNFTの取得価額になります。
具体的な仕訳イメージは以下の通りです(あくまで一般的な参考例です)。
- ETH 0.1ETH(取引時のレート:1ETH=30万円)でNFTを購入した場合
- 取得価額:0.1×300,000=30,000円
- 借方:NFT(資産)30,000円 / 貸方:暗号資産(ETH)30,000円
ここで注意が必要なのは、ETH自体の取得時と売却時のレート差による「ETHの譲渡損益」が別途発生するという点です。NFTを購入するためにETHを使った時点で、ETHの「売却」とみなされ、ETH保有期間中の値上がり分が暗号資産の雑所得として課税対象になります。この二重の損益計算を見落とす方が非常に多いです。
私自身、初めてNFTを購入した年度の申告で、ETHの譲渡損益の計上を後から気づいて修正申告が必要になりかけた経験があります。「NFTを買っただけなのに、なぜETHの損益まで計算するの?」と当時は混乱しました。暗号資産を「使う」行為はすべて「売却」として扱われる、この概念をきちんと理解するまでに時間がかかりました。
ガス代は経費になるか?計上ルールを整理する
ガス代(Ethereumネットワークの取引手数料)の経費処理は、NFT確定申告で個人事業主が最も頭を悩ませるポイントの一つです。結論から言えば、事業所得として申告している場合はガス代を経費(支払手数料)として計上できます。雑所得の場合は「必要経費」として収入から差し引くことが可能です。
ただし、ガス代が発生するタイミングは複数あります。NFT購入時、NFT売却時、ウォレット間の送金時など、それぞれ発生目的が異なります。一般的には、NFTの売買に直接関連するガス代は取得価額に含めるか経費とするかを選択できますが、取得価額に含める方が計算の一貫性を保ちやすいと私は判断しています。
仕訳例としては、NFT売却時のガス代(仮に1,500円相当のETH)を支払手数料として計上するなら次のようになります。
- 借方:支払手数料 1,500円 / 貸方:暗号資産(ETH)1,500円
ガス代の記録はMetaMaskの取引履歴や、etherscan.ioなどのブロックチェーンエクスプローラーで確認できます。取引のたびに記録を残しておくことが、後々の集計作業を大幅に楽にします。
売却時の損益計算と仕訳例
NFT売却時の損益計算の仕組み
NFTを売却した際の損益は「売却価額-取得価額-売却に係るガス代」で算出します。この計算をするためには、取得時のレートを正確に記録しておくことが前提です。取得価額が不明な場合、税務上は「ゼロ」として扱われるリスクがあり、実質的に売却金額の全額が課税対象になりかねません。
たとえば、取得価額30,000円のNFTを0.15ETH(1ETH=35万円のレートで52,500円相当)で売却した場合の損益は次のようになります。
- 売却価額:52,500円
- 取得価額:30,000円
- 売却ガス代:2,000円(仮定)
- 譲渡益:52,500円-30,000円-2,000円=20,500円
この20,500円が雑所得(または事業所得)の収入として計上されます。なお、売却によって受け取ったETH自体の価格変動も別途記録が必要です。個人差があるため、複雑な取引が多い場合は必ず税理士に相談することをおすすめします。
仕訳の具体的な記帳方法
上記の売却を複式簿記で記帳する場合の仕訳例(参考)は以下の通りです。
- 借方:暗号資産(ETH)52,500円 / 貸方:NFT売却収入 52,500円
- 借方:NFT売却原価 30,000円 / 貸方:NFT(資産)30,000円
- 借方:支払手数料(ガス代)2,000円 / 貸方:暗号資産(ETH)2,000円
雑所得で申告する場合、複式簿記の義務はありませんが、記録を残しておくことで申告時の計算ミスを防げます。マネーフォワード クラウド確定申告のような会計ソフトを使えば、暗号資産取引の取込みと仕訳の自動生成をある程度サポートしてもらえます。法人化せず節税できる10の方法|フリーランス必読
私が初年度に詰まった3つの壁
壁①「ETH使用時の譲渡損益」と壁②「複数ウォレットの管理」
私がNFT取引を始めたのは2021年のことです。当時は個人事業主として活動しながら、東京都内でインバウンド向けの民泊事業立ち上げを進めている時期でした。副業的にNFTアートを数点購入し、2022年2月の確定申告で初めてNFT関連の申告に挑みました。
最初の壁は、前述したETH使用時の譲渡損益の二重計算でした。「NFTを買ったのに、なぜETHの損益を別に計算しないといけないのか」という概念の理解に2日かかりました。しかも当時のETHは2021年11月に過去最高値近辺をつけており、私が保有していたETHも含み益が出ていたため、NFTの購入で思わぬ課税が発生していたのです。これは正直、痛い目を見ました。
第二の壁は複数ウォレットの管理です。MetaMaskの個人ウォレットとハードウェアウォレット(Ledger)を使い分けていた私は、取引履歴が分散していて年度末の集計に数時間を費やしました。ウォレットごとにcsvをエクスポートし、スプレッドシートで手動照合するという作業は、今思い返してもかなりの非効率でした。当時はクリプト対応の会計ソフトが今ほど充実していなかった事情もありますが、早い段階でツールを導入するべきだったと反省しています。
壁③「取得価額の記録漏れ」が引き起こした修正リスク
三つ目の壁が最も深刻でした。2021年に購入したNFT数点について、取得時のETHレートをメモし忘れていたのです。ブロックチェーン上の取引記録はetherscan.ioで確認できましたが、その時点のETH/JPYレートを後から正確に復元するのは想像以上に手間がかかりました。結局、CoinMarketCapとCoinGeckoの過去レートを照合して取得価額を算出しましたが、「この方法で本当に正しいのか」という不安は申告期限ギリギリまで消えませんでした。
保険代理店時代、複数の個人事業主のお客様から「暗号資産の申告で過去の取引が追えなくて困っている」という相談を受けたことが何度もあります。記録の欠如は申告の正確性を損なうだけでなく、税務調査が入った場合のリスクにも直結します。NFT・暗号資産の取引は、発生したその日に円建ての金額を記録する習慣が何より大切だと、身をもって実感しています。
マネーフォワードでの実務手順とまとめ
マネーフォワード クラウド確定申告でのNFT仕訳の進め方
マネーフォワード クラウド確定申告は、個人事業主の暗号資産・NFT申告に対応した機能を備えています。実務上の手順として、私が実際に行っている流れは以下の通りです。
- ①各取引所・ウォレットのCSVをエクスポートし、マネーフォワードに取り込む
- ②自動仕訳が適用された取引を一件ずつ確認し、NFT関連の取引に「NFT売却収入」「支払手数料(ガス代)」などの勘定科目を手動設定する
- ③ETH等の取得単価を「総平均法」または「移動平均法」で統一して設定する(国税庁は移動平均法を原則推奨)
- ④収支の集計結果を確認し、確定申告書(青色申告決算書または収支内訳書)に反映する
マネーフォワードはウォレットアドレスを登録することでオンチェーン取引を自動取得する機能も持っています。2024年現在、Ethereum系ウォレットの連携精度は一般的に向上していますが、すべての取引が自動で正確に仕訳されるわけではないため、必ず目視確認が必要です。
また、雑所得と事業所得のどちらで申告するかによってソフト上の設定が異なります。初めて設定する際は、マネーフォワードのサポートドキュメントを参照するか、税理士に確認しながら進めることをおすすめします。開業1年目の確定申告|注意すべき5つのポイント
この記事のまとめと次のアクション
NFT確定申告で個人事業主が直面する主な課題を振り返ります。
- 所得区分(雑所得 vs 事業所得)は取引の実態と規模で判定し、不明な場合は税理士に相談する
- NFT取得価額は購入時のETH円換算額で算出し、ETH使用時の譲渡損益も別途計上する
- ガス代は経費(支払手数料)または取得価額への算入として処理し、発生のたびに記録を残す
- 取得価額の記録漏れは申告の正確性と税務調査リスクを高めるため、取引日当日の円換算記録が最重要
- マネーフォワード クラウド確定申告などのツールを活用し、年度末に慌てない体制をつくる
NFT・暗号資産の申告は、ルールが毎年アップデートされる分野です。AFP資格と実務経験を持つ私から見ても、個人が完全に独力で対応するには複雑な部分があります。ツールを活用して記録と仕訳を効率化しつつ、判断に迷う場面では必ず専門家(税理士)に相談してください。
帳簿作成・申告書の自動生成に対応した会計ソフトを使えば、記録の抜け漏れを大幅に減らせます。まずは無料プランから始めて、自分の取引量に合った使い方を試してみてください。
無料の確定申告自動化ソフト マネーフォワード クラウド確定申告![]()
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
本記事のリンクはアフィリエイトリンクを含みます。
