退職して個人事業主になった直後、「任意継続と国民健康保険、どちらが安いか」という問いに即答できる人は少ないです。私はAFP資格を取得してから5年間、総合保険代理店でフリーランスや個人事業主の健康保険相談を数多く担当してきました。その経験から言うと、個人事業主の社会保険における任意継続と国保の比較は、3つの基準で整理すると判断が格段に速くなります。
任意継続と国保の基本差を整理する
そもそも「任意継続」とは何か
任意継続とは、会社員として加入していた健康保険(協会けんぽや健康保険組合)を、退職後も最長2年間継続できる制度です。通常、会社員は保険料を会社と折半していますが、退職後は全額自己負担になります。ただし、加入中の保険料は退職時の標準報酬月額をベースに計算されるため、直近の給与が高かった人は、国民健康保険より割安になるケースがあります。
退職から20日以内に申請しなければならない点は見落とされやすいです。私が代理店にいた頃、この期限を1日過ぎて申請できなかった相談者が何人もいました。「退職後に少し休んでから手続きしよう」という考えが命取りになるので、退職日が決まった段階で動き出すべきです。
国民健康保険との構造的な違い
国民健康保険(国保)は市区町村が運営する保険で、前年の所得・世帯の人数・資産に応じて保険料が決まります。任意継続と異なり、保険料は毎年変動します。収入が下がれば保険料も下がる一方、家族を扶養に入れるという概念がなく、世帯員それぞれに保険料がかかる仕組みです。
また、国保には上限額があります。2024年度は医療分・支援分・介護分を合計すると年間106万円が上限(一般的な目安として)とされており、高収入だった会社員が退職後に国保へ移行した場合でも、この上限以上は徴収されません。任意継続にも上限はありますが、計算の起点が異なるため、単純比較は禁物です。
保険代理店5年間で見えた保険料比較の3つの基準
基準①:退職前の標準報酬月額と前年所得の差
私が総合保険代理店に在籍していた5年間で、健康保険の選択相談を受けたケースはゆうに500件を超えます。その経験で気づいたのは、「任意継続が得かどうか」を決める第一関門は、退職前の標準報酬月額と前年所得の乖離です。
たとえば、前年の給与所得が500万円だった会社員が、フリーランスに転向した初年度に収入が200万円程度に落ちると予想される場合、国保の算定基準となる「前年所得」はまだ500万円水準のままです。つまり退職1年目は、任意継続の保険料より国保のほうが高くなりやすいです。逆に、副業が軌道に乗った状態でフリーランス化した人の場合、初年度から所得が高く保たれるため、国保の上限額に早期に達して両者の差が縮まることもあります。個人差がありますので、具体的な計算は各自治体の窓口や社会保険労務士への相談を推奨します。
基準②:加入している健康保険組合の保険料率
任意継続の保険料は加入先の健保組合によって異なります。協会けんぽの場合、都道府県ごとに保険料率が設定されています。たとえば東京都の協会けんぽの料率(2024年度)は10.00%です。一方、大手企業の健康保険組合は料率が低めに設定されているケースがあり、任意継続でも有利な保険料が維持されることがあります。
私が現在、東京都内で法人を経営しながら民泊事業を運営していますが、法人設立当初に協会けんぽへ加入手続きをした際、料率の確認を怠って翌月の口座引き落とし額を見てやや驚いた経験があります。事前に料率と標準報酬月額を掛け合わせて試算しておけば済む話でしたが、忙しさを言い訳に後回しにしたのが失敗でした。退職後に任意継続を選ぶ際も、自分が加入していた健保組合の料率を先に確認することが出発点です。
基準③:加入期間内に保険料が下がる見込みがあるか
任意継続の保険料は、原則として2年間変わりません(法改正により一定条件で変更可能になりましたが、基本的に固定と考えてよいです)。一方、国保は翌年度の料率改定があり、所得が下がれば保険料も連動して下がります。つまり、フリーランス転向後に収入が急落する見込みがある場合は、初年度こそ任意継続が有利でも、2年目以降に国保へ切り替えたほうが総額で有利になることがあります。
この「期間トータルで見た保険料比較」の視点は、単月の比較だけを気にしている人が見落としやすいポイントです。私の相談経験では、任意継続を選んだまま2年経過後に保険料の急騰を嘆く方が少なくありませんでした。2年という期限を前提に、出口戦略まで含めて選択することが重要です。法人化せず節税できる10の方法|フリーランス必読
扶養家族がいると逆転する分岐点
任意継続の「扶養」は大きなメリットになりえる
配偶者や子どもなど扶養家族がいる場合、任意継続は特に検討する価値があります。任意継続では、会社員時代と同様に家族を扶養に入れることができ、扶養家族の保険料は原則かかりません。一方、国保は世帯員それぞれに保険料が発生します。
たとえば、専業主婦の配偶者と子ども2人がいる家庭で、退職後に国保へ移行した場合、3人分の均等割が加算されます。東京都内のある自治体では均等割が1人あたり年間5万円前後(一般的な目安)とされており、3人分で15万円近い差が生じることもあります。扶養家族が多いほど任意継続の相対的なメリットが大きくなる傾向があります。
子どもが独立・配偶者が就職すると状況が変わる
一方、任意継続の2年間の間に配偶者がパートから正社員へ転換したり、子どもが就職して独立したりすると、扶養人数が減り任意継続のアドバンテージは薄れます。この場合は国保への早期切替を再検討する余地が出てきます。
私が代理店時代に担当した相談者の中に、フリーランスに転向した40代のWebデザイナーの方がいました(個人を特定できない形で抽象化しています)。任意継続を選んでいたものの、途中で配偶者が正社員採用され扶養から外れた結果、任意継続の保険料が割高になってしまいました。「最初の試算通りにいかない」という好例で、定期的に保険料を見直す習慣が必要だと痛感した事例です。開業1年目の確定申告|注意すべき5つのポイント
2年後の切替判断と注意点
任意継続の出口は2パターン
任意継続は最長2年間という期限付きです。2年を経過すると自動的に資格を喪失し、国保への切り替えが必要になります。ただし、2年を待たずに任意継続から国保へ移行できるタイミングが2つあります。一つは「保険料を納付期限までに支払わない」という方法(2022年の健康保険法改正以前はこれが唯一の任意脱退手段でした)、もう一つは法改正後に認められた「任意の脱退申請」です。
2022年以降は本人の申し出により、任意のタイミングで任意継続を脱退できるようになりました。これにより、フリーランス転向後に所得が大幅に下落した段階で速やかに国保へ切り替え、保険料の軽減を受けることが以前よりスムーズになっています。切替のタイミングは翌月1日付けになるため、月末近くに判断すると1か月分の二重払いを避けられます。
国保の減額申請と軽減制度を見落とさない
国保には、一定の基準以下の所得の場合に均等割・平等割を7割・5割・2割軽減する制度があります(自治体によって異なります)。退職した年に収入が激減した場合、この軽減措置の対象になるケースがあります。軽減は自動適用されることが多いですが、自治体によって申告が必要な場合もあるため、移行時に窓口で確認することを推奨します。
また、倒産・解雇・雇い止めなど「非自発的な離職」の場合は、前年の給与所得を30/100として計算する特例減額があります。ただし「自己都合退職」でフリーランスになった場合はこの特例の対象外になることが一般的です。自身の退職理由をあらかじめ整理しておくと、窓口での手続きがスムーズです。
500人超の相談で見た失敗事例3つとまとめ
よくある失敗3つ:私が目の当たりにしたケース
- 失敗①:退職20日以内の申請を忘れた 任意継続の申請期限を知らず、退職後に旅行へ出かけていた間に20日が過ぎてしまったケースです。国保しか選べなくなり、扶養家族が多かったため年間20万円以上の差が生じたと試算されました。退職日が決まった瞬間に動き出すことが不可欠です。
- 失敗②:前年所得だけで判断して2年目に後悔 退職1年目の国保保険料が高く任意継続を選んだものの、フリーランス2年目に所得が急落。任意継続は保険料が変わらないため割高になり、早期に脱退できると知らずに1年以上損し続けたケースです。2022年の法改正で状況は改善されましたが、制度を知らない人はまだ多いです。
- 強失敗③:扶養家族の変化を再計算しなかった 前述のWebデザイナーの事例と同様に、途中で家族構成が変わったにもかかわらず保険料の見直しをしなかったケースです。「最初に選んだから大丈夫」と思い込むのは危険で、年1回は試算し直す習慣が必要です。
判断の整理とツール活用で確定申告もまとめて対策を
個人事業主が退職後に選ぶべき健康保険は、①退職前の標準報酬月額と前年所得の差、②加入先健保組合の保険料率、③2年間の所得変動見込み、この3基準で判断の枠組みが作れます。扶養家族がいる場合は国保の均等割コストを必ず加算して比較してください。
私が5年間の保険代理店業務とその後の法人経営を通じて感じるのは、個人事業主の健康保険問題は「選んで終わり」ではなく、毎年の所得と家族構成に合わせて継続的に見直すものだということです。そして保険料の選択と並行して、確定申告の精度を上げることが手取り最大化の近道になります。個人事業主として初めての確定申告に不安がある方や、経費管理を効率化したい方には、クラウド型の確定申告ソフトを活用する方法が有力な選択肢の一つとして挙げられます。
私自身、法人の経理と個人事業主として活動するメンバーへの情報提供の両面で、クラウド会計ツールの有用性を実感しています。ぜひ一度試してみてください。
無料の確定申告自動化ソフト マネーフォワード クラウド確定申告
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
本記事のリンクはアフィリエイトリンクを含みます。
