個人事業主には会社員のような退職金制度がなく、老後資金は完全に自分で用意しなければなりません。AFP資格保有者として、また東京都内で法人を経営しながら5年以上にわたり個人事業主の資金調達を実務で見てきた私が、退職金代わりになる制度7つを節税効果・流動性・リスクの3軸で比較します。「個人事業主 退職金 代わり 制度 比較」で迷っている方の意思決定に、この記事が直接役立つように書きました。
個人事業主に退職金代わり制度が必要な本当の理由
老後資金の自前調達という現実
国民年金だけで老後を乗り切ることが難しいのは、多くの方がすでに感じていると思います。日本年金機構の公表データによれば、国民年金の満額受給額は2024年度時点で月約6万8,000円です。これに対して総務省の家計調査では、高齢単身世帯の消費支出は月平均14万〜15万円前後とされており、単純計算でも月7万〜8万円前後の不足が生じる計算になります(個人差があります)。
会社員であれば厚生年金と退職金が上乗せされますが、個人事業主にはそのどちらもありません。だからこそ、現役期間中に「自分専用の退職金制度」を意識的に設計することが、老後の生活水準を守るうえで特に重要な行動です。
節税しながら積み立てられる制度が存在する
ここが個人事業主にとっての大きな武器です。小規模企業共済やiDeCoなど、積立金が全額所得控除になる制度を使えば、積み立てながら税負担を減らせます。たとえば所得税・住民税の合計税率が30%のケースで月7万円を小規模企業共済に掛ければ、年間の節税効果は一般的な試算で25万円前後になることがあります(税率・個人の課税状況により異なります。正確な金額は税理士にご確認ください)。
老後資金を貯めながら今の税負担も下げられる。この二重の効果を知らずに、ただ銀行口座に貯蓄するだけというパターンは、保険代理店でフリーランスの相談を受けていた時代に本当によく見てきました。制度を知っているか知らないかで、10年後の手元資金に大きな差が開きます。
保険代理店時代と民泊経営で痛感した「制度選びの失敗」
フリーランス相談者が陥った「iDeCo一択」の落とし穴
総合保険代理店に在籍していた3年間、私は個人事業主・フリーランスの方から毎月のように老後資金の相談を受けていました。そのなかで繰り返し目にした失敗パターンが、「iDeCoだけに全額投じる」という選択です。
iDeCoは掛金が全額所得控除になり、運用益も非課税という節税メリットが非常に大きい制度です。ただし、原則60歳まで引き出せません。ある30代のWebデザイナーの方(個人を特定できない形で抽象化しています)は、月5万円をiDeCoに回していたところ、40代で病気による長期休業が発生し、資金繰りが苦しくなっても積立金を手にできない状況に直面しました。iDeCoの流動性の低さを事前に把握していなかったことが原因でした。
「老後に備えたはずが、今の生活を守れない」という状況は、制度を一本に絞ることのリスクを教えてくれます。流動性と節税効果のバランスを考えたポートフォリオが必要なのです。
民泊立ち上げ期に経営セーフティ共済で救われた話
私自身も、2020年に東京都内でインバウンド向けの民泊事業を法人で立ち上げた際、コロナ禍の直撃を受けました。外国人観光客がゼロになり、売上が月数十万円単位で消えていく状況が1年以上続きました。そのとき手元資金として動かせたのが、法人で加入していた経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の解約手当金でした。
掛金総額の一定割合が解約手当金として戻ってくる仕組みで、法人ではありますが、個人事業主でも加入できます。あの時期に「積立=緊急時の予備資金」という視点を持っていたことが、事業継続を可能にしてくれました。退職金代わりの制度を選ぶ際、「いざという時に使えるか」という軸は絶対に外してはいけないと、身をもって学びました。
iDeCoと小規模企業共済の節税効果を数字で比較する
小規模企業共済:月7万円掛けると何が起きるか
小規模企業共済は、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営する個人事業主専用の退職金積立制度です。月額500円〜7万円の範囲で掛け金を設定でき、全額が所得控除の対象になります。
課税所得400万円の個人事業主が月7万円(年84万円)を掛けた場合、所得税・住民税の合算税率を約30%と仮定すると、年間の節税額は一般的な目安で25万円前後になります。20年間掛け続ければ、積立総額は1,680万円。しかも共済金受取時は退職所得として課税されるため、給付時の税負担も相対的に軽くなる構造です(受取方法・条件により異なります。詳細は中小機構の公式サイトまたは税理士にご確認ください)。
私がAFP として資産設計の相談を受けてきた経験からいえば、個人事業主の老後資金積立の「軸」として小規模企業共済を据え、他の制度で補完するという組み方が、節税効果と老後受取額の両立という観点で合理的です。法人化せず節税できる10の方法|フリーランス必読
iDeCoとの節税比較と使い分けの考え方
iDeCo(個人型確定拠出年金)の個人事業主向け掛金上限は月6万8,000円です。こちらも掛金全額が所得控除になり、運用益は非課税、受取時も退職所得か公的年金等控除が適用されます。トータルの税メリットは小規模企業共済と同等か、運用次第ではそれ以上になる可能性があります。
ただし、決定的に違うのは流動性です。iDeCoは原則60歳まで引き出せないのに対し、小規模企業共済は廃業・解約という形で引き出し可能(任意解約は一定期間経過後から元本割れなし)です。また、小規模企業共済には低金利の貸付制度もあり、急な資金需要にも対応できます。私の場合、民泊事業の運転資金として一時的に小規模企業共済の契約者貸付を活用したこともあります。
「節税効果の高さ」はiDeCoと小規模企業共済で甲乙つけがたい水準ですが、「いざという時に使えるか」という流動性では小規模企業共済に優位性があります。両方に分散して積み立てるのが、バランスの取れた選択肢の一つです。
経営セーフティ共済・つみたてNISA・その他制度の活用法
経営セーフティ共済は「節税+緊急資金」として活用する
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先の倒産によって発生した売掛金の回収不能に備える制度ですが、個人事業主にとっては節税ツールとしても有効です。掛金は月5,000円〜20万円の範囲で全額損金(経費)算入でき、掛金総額の上限は800万円です。
ただし注意点があります。解約手当金は益金(収入)として課税されるため、廃業・法人成りなど所得が低い年に解約するタイミング調整が重要です。私が民泊事業で活用した際も、コロナ禍で売上が激減した年度に合わせて一部解約を検討しました。「積む年」と「使う年」を意識した設計が求められます。開業1年目の確定申告|注意すべき5つのポイント
7制度を5軸で比較した早見表と月7万円の配分例
ここまで紹介した制度に加え、つみたてNISA・特定口座での投資信託積立・国民年金基金・変額保険・個人年金保険を含め、主要7制度を「節税効果/流動性/リスク/上限額/受取時課税」の5軸で整理します。
- 小規模企業共済:節税◎/流動性△(貸付あり)/リスク低/上限月7万円/退職所得扱い
- iDeCo:節税◎/流動性✕(60歳まで不可)/リスク中(運用次第)/上限月6.8万円/退職所得or年金
- 経営セーフティ共済:節税◎(全額経費)/流動性○(解約可)/リスク低/上限800万円総額/益金課税
- つみたてNISA:節税△(運用益非課税のみ)/流動性◎(いつでも換金可)/リスク中/年間120万円(2024年以降の新NISA)/非課税
- 国民年金基金:節税○(全額所得控除)/流動性✕(途中解約不可)/リスク低/上限月6.8万円(iDeCoとの合算)/公的年金等控除
- 個人年金保険:節税△(保険料控除の範囲内)/流動性△(解約返戻金あり)/リスク低〜中/商品次第/雑所得
- 特定口座・投資信託積立:節税✕(税制優遇なし)/流動性◎/リスク中〜高/上限なし/譲渡益課税
月7万円を積み立てる場合の配分例として、私自身が実務的に考えやすいパターンを示します。小規模企業共済に月3万円、iDeCoに月2万円、つみたてNISA(新NISA成長投資枠を含む)に月2万円というバランスは、節税・流動性・運用益の三つを同時に追う設計として検討する価値があります。ただし、最適な配分は所得水準・事業の資金繰り状況・年齢によって変わりますので、専門家への相談を推奨します。
7制度を5軸で比較した結論とAFPが選んだ最適解
制度選びで外してはいけない3つのポイント
- 流動性を確保する:iDeCoだけに偏ると、事業の資金繰り悪化時に対応できません。緊急時に使える制度(小規模企業共済の貸付・経営セーフティ共済の解約)を組み合わせることが重要です。
- 節税は「今の税率」で計算する:所得が少ない開業初年度は節税効果が限定的です。所得が安定した段階で掛金を増やし、節税効果を最大化する設計が合理的です。
- 受取時の課税も設計に入れる:経営セーフティ共済の解約手当金は受取年に益金課税されます。廃業・法人成りのタイミングや所得が低い年度に合わせて解約する計画を事前に立てておくと有利になることがあります(個人差・状況差があります)。
確定申告の手間を減らして積立を継続するために
どの制度を選ぶにしても、個人事業主の老後資金積立を継続するうえで欠かせないのが、確定申告の精度と効率です。小規模企業共済・iDeCo・経営セーフティ共済の掛金控除を正確に申告するには、収支の数字を常に把握している必要があります。
私自身、民泊事業と本業の収支を管理するうえでクラウド会計ソフトを活用しています。帳簿入力の自動化により、確定申告の作業時間を大幅に削減できると実感しています。申告漏れや入力ミスによる控除の取りこぼしを防ぐためにも、ツールへの投資は早い段階で行う価値があります。
個人事業主の老後資金積立は「制度を知ること」と「継続して積み立てること」の両輪で成り立ちます。まず今月から一つの制度に申し込み、並行して帳簿・申告の仕組みを整えることが、5年後・10年後の手元資金を大きく変える第一歩です。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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