「確定申告が赤字だから、どうせ融資なんて無理だ」――そう思い込んで諦めているフリーランスや個人事業主の方は少なくありません。しかし、フリーランスの確定申告が赤字でも融資は通る可能性があります。私はAFP(日本FP協会認定)として、保険代理店時代を含めると500人超のフリーランス・個人事業主の資金相談を担当してきました。赤字決算でも日本政策金融公庫の審査を突破した事例を何度も見てきた立場から、5つの突破口を実務視点で解説します。
赤字決算でも融資が通る理由――金融機関が本当に見ているもの
「赤字=事業が失敗」ではない、という大前提
確定申告の所得欄がマイナスになっていても、それが即「融資不可」を意味するわけではありません。特に日本政策金融公庫の新創業融資制度や一般貸付は、民間銀行よりも「事業の将来性」と「経営者の資質」に重きを置く設計になっています。
私が総合保険代理店に勤務していた頃、相談に来たWebデザイナーの方(開業3年目)は、前期の確定申告が約80万円の赤字でした。しかし事業収入そのものは前年比でおよそ30%増加しており、赤字の主因は設備投資(パソコン・ソフトウェア)の一括計上でした。このケースでは、赤字の「中身」を丁寧に説明することで、公庫融資の審査を通過しています。
赤字には大きく分けて二種類あります。「売上が立たない構造的な赤字」と「投資・先行コストによる一時的な赤字」です。後者であれば、むしろ成長の証として読み替えることができます。
キャッシュフローと売上推移が審査の核心になる
日本政策金融公庫の担当者が実際に重視するのは、損益計算上の黒字・赤字よりも「現金がどう動いているか」です。具体的には、通帳の入出金履歴、売上の推移、そして毎月の固定費と変動費のバランスを見ます。
所得税の確定申告書は節税のために経費を最大限計上した結果として赤字になることがあります。しかし通帳を見れば「実際には毎月きちんと入金がある」「生活費をまかなえている」という実態が見えてきます。審査担当者はそこを読み取ります。私自身、現在経営している法人の決算で気付いたことですが、税務上の利益と実際のキャッシュは必ずしも一致しません。この差を説明できるかどうかが、審査の分岐点になります。
公庫が見る3つの本質指標――私の申請経験から見えてきたこと
①売上の「方向性」:前年比よりトレンドを重視する
私は現在、東京都内でインバウンド向け民泊事業を法人として運営しています。法人設立初年度は先行投資がかさみ、損益はマイナスでした。その状況で追加の設備投資資金を調達しようとした際、私が最も意識したのが「売上の方向性」を数字で示すことでした。
月次の売上データを12か月分グラフ化し、前年同月比・前々年同月比の両方を添付資料として準備しました。単月の数字だけでなく、トレンドとして「右肩上がりである」という事実を視覚的に伝えることが重要です。公庫の担当者からは「売上の伸びが明確に見えるので、計画の根拠として説得力がある」というフィードバックをいただいています。
②経営者の「信用力」:税金・社会保険の納付状況が想像以上に重要
事業の数字と同じくらい審査に影響するのが、経営者個人の信用力です。特に、所得税・住民税・国民健康保険料の納付が滞っていないかは、公庫の審査で必ず確認される項目です。
保険代理店時代の相談経験から言うと、赤字決算でも審査通過した方の共通点は「税金と社会保険を一度も滞納していない」ことでした。逆に、売上は十分にあるにもかかわらず融資が難しくなったケースの多くは、納付遅延の履歴が原因でした。赤字の時期こそ、分割納付の相談を税務署に早めにしておくことを強くお勧めします。これは私自身、民泊事業の立ち上げ期に税理士から真っ先に言われたことでもあります。
③自己資金の水準については次のセクションで詳しく触れますが、この「信用力」の観点は見落とされがちな本質指標です。
私が申請書で工夫した5点――赤字を言い訳しない書き方
赤字の原因を「投資」として数字で説明する
公庫への申請書類で最も重要な書類のひとつが「創業計画書」または「事業計画書」です。赤字決算がある場合、この書類の中で赤字の原因を明確に説明する必要があります。ポイントは「言い訳にならず、投資として説明する」ことです。
私が実際に工夫した5点を整理すると、次のようになります。
- 赤字額の内訳を「経費の種類別」に分解して記載した(減価償却・広告費・外注費など)
- 「この経費を使った結果、〇か月後にどう売上が変化したか」を時系列で示した
- 翌期の売上見込みを、既存顧客の継続案件と新規案件に分けて根拠付きで記載した
- 月次収支の実績と計画を並べた「対比表」を添付した
- 自己資金の出所と現在残高を通帳コピーとともに示した
特に②と③は、「過去の赤字」ではなく「未来の回収可能性」に審査官の視点を向かわせるために有効です。事業計画書は審査官への「プレゼン資料」だと考えて作ることが大切です。法人化せず節税できる10の方法|フリーランス必読
自己資金比率は「創業融資の場合は10分の1以上」を目安にする
日本政策金融公庫の新創業融資制度では、融資希望額の10分の1以上の自己資金があることが申込要件のひとつとして一般的に挙げられています(公庫の要件は変更される場合があるため、申込時点で必ず最新情報を確認してください)。
たとえば300万円の融資を希望するなら、30万円以上の自己資金が必要になる計算です。赤字決算が続いている場合でも、この自己資金をコツコツ積み上げ、通帳に「準備していた」という履歴を作ることが審査上の信頼につながります。タンス預金を直前に入金するのは逆効果になることがあります。私が相談を受けた個人事業主の方で、申請直前に親族から一時的に資金を借りて通帳に入金していたケースがありましたが、担当者から出所の確認が入り、説明に手間取るという経験をされていました。
赤字を強みに変える事業計画書――500人の相談で見た成功パターン
「赤字の理由」を先手で開示する姿勢が信頼をつくる
保険代理店時代を含めると、私はフリーランスや個人事業主の資金相談を500人以上担当してきました。その経験から断言できることがあります。審査で有利に進んだ方に共通しているのは「都合の悪いことを隠さなかった」という姿勢です。
赤字決算という事実は、担当者も書類を見れば分かります。それを黙っているより、「なぜ赤字になったのか」「それはいつ解消される見込みなのか」を事業計画書の中で先に説明してしまう。この「先手の開示」が審査官との信頼関係を作ります。私が相談で見てきた成功事例の多くは、赤字を誤魔化すのではなく「成長過程の投資フェーズです」と堂々と説明していた方々でした。
売上の「再現性」と「継続性」を数字で証明する
事業計画書で最も評価される要素のひとつが、売上の再現性と継続性です。フリーランスの場合、「単発の案件依存」か「継続契約のある安定収益」かで、計画の信憑性が大きく変わります。
具体的には、既存クライアントとの継続契約書や発注書のコピーを添付することが有効です。契約が口頭ベースであれば、メールの履歴でも代替できます。「来月も同じクライアントから同額の発注がある可能性が高い」という根拠を示すことで、翌期の黒字転換計画が現実味を帯びます。
また、フリーランスの強みである「専門性」を計画書の冒頭で明示することも大切です。「私はこの領域で〇年の実績があり、現在〇社と取引がある」という実績の棚卸しが、審査官の安心感につながります。確定申告書と事業計画書は連携して読まれるものです。確定申告データを整理・管理しやすいツールを活用することで、申請書類の作成効率も大幅に上がります。開業1年目の確定申告|注意すべき5つのポイント
相談500人で見た失敗例と、今すぐ始める準備――まとめ+CTA
赤字融資申請でよくある5つの失敗パターン
- 赤字の原因を説明する欄を空白にした(「赤字です」という事実だけを出した)
- 売上見込みを「感覚値」で記載し、根拠となるデータを添付しなかった
- 申請直前に自己資金を一時的にかき集め、通帳残高の推移が不自然になった
- 税金・社会保険料の未払いや滞納がある状態で申請してしまった
- 事業計画書を「書式を埋めるだけ」と考え、担当者への説明を準備しなかった
この5つのうちひとつでも該当するなら、申請前に修正できるものはすぐに対処してください。特に税金・社会保険の滞納は、分割納付の相談を早めに行うことで改善できます。審査は「現在の状態」と「これからの姿勢」の両方を見ています。
確定申告の精度が融資申請の土台になる――今日から整えるべきこと
赤字融資申請で最初に躓くのが「過去の確定申告データが整理されていない」という問題です。収支がうろ覚えで、経費の内訳が後から追えない状態では、事業計画書に説得力のある数字を載せることができません。
私自身、民泊事業の立ち上げ当初は経費管理が手作業でかなり煩雑でした。クレジットカードの明細と領収書が一致しているかを毎月確認するだけでかなりの時間を消費していました。今はクラウド会計ソフトを活用することで、月次の収支がリアルタイムで可視化され、公庫への申請書類を作る際も数字の根拠をすぐに示せるようになっています。
確定申告を正確かつ効率的に行うことは、節税だけでなく「融資が通る土台を作ること」でもあります。まだクラウド会計を使っていない方は、まず無料で試してみることを強くお勧めします。なお、本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の融資可否や税額については専門家(税理士・公庫担当者)へのご相談をお勧めします。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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